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ゲームアプリの舞台は、PCや携帯に加えて、スマートフォンやiPadなど、実に多様になっている。プラットフォームが乱立するこの状況が今後も続くのか、あるいはどこか一強が出てくるのか、プラットフォーム競争の行く末が気になるところである。
プラットフォーム競争は、情報端末のハードウエアだけでなく、Webサイト運営というソフト面でも起きている。「オープンプラットフォームとは何なのか――DeNA『モバゲータウン』の戦略」で述べたように、今までプラットフォームといえば、情報端末や通信インフラを提供する企業を指したが、ソーシャルゲームでは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がプラットフォームとなり、その上にゲームアプリという別会社のコンテンツが搭載される。
この場合、プラットフォーム企業といえども、ハードウエアや通信インフラという巨大設備をおさえているわけではなく、ゲームアプリの提供企業と同様のWebサイトに過ぎない。すると、他産業よりも参入障壁が低いため、さまざまな企業からの流入が続き、プラットフォーム競争が激化する。
例えば、世界最大のソーシャルゲームのプロバイダーであるZyngaは、「Zynga Live」という独自のゲームSNSサイトを開始すると社内でアナウンスしたようだ(外部リンク)。自らがプラットフォームになろうとしているのだ。これまで、米国SNSのFacebookにおいて、農園系アプリの「FirmVille」など人気ゲームを多数リリースし、月間のアクティブユーザー数は2億5000万人以上と、Facebookの拡大にも貢献したと言われてきた。しかし、ここにきてこの関係に変化が生じ始めている。
●「セルフィちゃんねる」の事例
今回のテーマは、「ハードウエアに頼らないプラットフォームとはいかなるものか」である。これが業界の趨勢を予見する鍵となる。新しいプラットフォームの可能性を考える中で、ジークレストの試みに目をひかれる。
ジークレストは、2003年創業のオンラインゲーム制作運営会社であり、オンラインRPG「トリックスター」など人気ゲームを擁している。その後、2006年からライトユーザー向けのポータルサイト「@games(アットゲームズ)」を展開している。トランプなどのミニゲームが63種類、その他にチャットや日記やアバターといったユーザー交流の場が用意された、ゲーム専用のポータルサイトである。
ジークレストはゲームポータルというプラットフォームを持ちながらも、mixiアプリに初期から参入し、複数のアプリを展開している。中でも、2009年8月にリリースした「セルフィちゃんねる(mixi内のページにリンク)」は、36万人超のユーザーを集めて人気である。これは、@gamesで使われているのと同じアバター(キャラクター)で、着替えをしたりマイミクとチャットしたりできるアプリである。
ほかにも、「セルフィトランプ」「セルフィれすとらん(6月上旬再リリース予定)」という、セルフィシリーズのアプリがリリースされている。
「セルフィトランプ」では、「大富豪」「7ならべ」「ババぬき」の対戦ゲームを最大4人まで一緒にプレイできる。対戦相手は、マイミクだけでなく、対戦ロビーで見つけることもできる。ちょっと暇つぶししたいときにちょうどよいアプリだ。操作するアバターも、本家サイトの@gamesでつちかった歴史があるだけ、洗練されていて魅力的である。
しかし、本当の意味で画期的なのは、「セルフィちゃんねる」で作ったアバターを使って、「セルフィトランプ」「セルフィれすとらん」を遊べることである。つまり、複数のアプリの間でアバターを共有し連動する仕組みになっている。「セルフィちゃんねるの周りに、サテライト的にアプリを配置していく」、ジークレスト取締役の長沢潔氏はその方針を語る。
さらに特徴的なのは、本家サイト@gamesへの還流である。mixiで「セルフィちゃんねる」に触れてとても気に入って、「@gamesでより深く遊ぼう」という人もいるという。
現在、登録ユーザー数のランキングが成功の指標とみられがちであるが、複数アプリとの連動や自社サイトへの還流を考えると、ソーシャルゲームの成功はさまざまな角度から考えるべきだろう。
●ドメインレス・プラットフォームの可能性
筆者がこのアプリを一見して感じたことは、「ドメインレス・プラットフォーム」という未来の可能性である。
1つのアプリの枠におさまらない、新しいソーシャルゲームの展開方法である。アプリ間での客の動線、あるいは、mixiと@gamesという2つのプラットフォームでの客の動線を考えるという切り口である。複数のアプリやWebサイトが仮想的に結びつくことで、あたかも1つのプラットフォームとして機能する、新しいプラットフォームの可能性である。
プラットフォームの形態は、情報端末の規格というハードウエアから、特定のWebサイトとそこにコンテンツを載せるためのプログラム規格というソフトウエアに移った。後者に当たるのが、ソーシャルゲームのプラットフォームとなったSNSである。
これがさらに無形化し、サービス要素をベースとしたプラットフォームに進化する可能性が考えられる。そこでは、いかにユーザーを満足させて有料課金を引き出すかという、サービス要素が中心的な役割を占める。
これまでのコンテンツの評価指標を振り返ってみよう。プラットフォームの未来像は、収益モデル(マネタイズ)と評価指標に深く関係している。
民放テレビ放送と同じく広告モデルをとるならば、画面を見る目の「数」が何より重要となる。そこで評価指標として、視聴率至上主義ならぬ、PV(ページビュー)至上主義が生まれた。特定のページに対するアクセス「数」が、そのまま広告収入につながるからである。
時代は移り、動画サイトやユーザー投稿型のサイトが台頭し、1つのページを長く見るスタイルが増えてきた。そこで、コンテンツを見ている目の「数」だけではなく、見ている「時間」が重要と言われるようになった。実際に、動画サイトやSNSなどの近年の人気サイトは、「ユーザーの滞在時間が長い」と言われている。3年ほど前から、視聴率調査の大手ニールセンでは、ランキング算出の際に、サイト滞在時間を調査対象に組み込むようになった。
そして、リーマンショック後の広告収入の落ち込みから、ユーザー課金によるマネタイズが注目されるようになる。収入の源泉は、「金を払ってでも使いたいと思うか」というユーザー心理に存在するようになる。すると、アクセス数の意味は、相対的に低くなる。もちろん、人通りの多さはビジネスチャンスになるが、あくまでユーザーに金を払ってもらわねば意味がない。どれだけの人が課金するか(PU)、客単価はいくらか(ARPU)という別の指標が、売り上げを構成する。
ユーザー心理を突き詰めていくと、「ユーザーが生活のなかで、どれだけ意識してくれているか」が大事なのだという考えが出てくる。
携帯アプリが、この考えによくマッチしている。1日に使う時間はさほど多くなくても、心のどこかでいつも気になっていて、時間が空いたときについ見てしまう。人気の携帯アプリはそういう遊ばれ方をしている。
実際に画面をみている回数や時間ではなく、どれだけ気になる存在になれるのか。目指すのは、画面を見ていない時にも、頭の片隅に残るサイトである。そんな「ユーザー意識」を作り出すことができた時、特定のサイトやプラットフォームに縛られないコンテンツが可能になる。
サービス要素からなるプラットフォームでは、1つのサイトやアプリという固定の場にこだわる必要がない。ユーザーにどれだけ意識させ、どれだけ満足させるかが鍵である。そのノウハウが蓄積できれば、サイトやアプリの展開はもっと柔軟になり、固定の場にこだわらないドメインレス・プラットフォームの道も見えてくる。
プラットフォームの未来がどんな風に描けるか、不確定なところは多いが、こんな可能性を1つ念頭におきながら、今後の趨勢を見ていきたい。
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